白虎七星士最年少、胃宿ちゃん。
無邪気で明るい私達のアイドル。
でもそのアイドルは時には私の…。


小さなライバル


私達は西廊国の宮殿で束の間の休日を過ごしていた。
昼食が終えた後、婁宿に『散歩しよう』と言われて庭に出てきていた。
宮殿の庭は緑一面で多くの木や、大きな池がある。
そして何よりも空気が澄んでいて気持ちが良い。

「今日は良いお天気ね」
「うん…。皆も外に出てくればいいのに」
「そうね。こんなに気持ち良いのにもったいないわ…」
私は婁宿と歩きながら話していた。
皆は『旅で疲れた』と言って自室で休んでいる。
(でも嬉しかったりするのよね…)
私は心の中で婁宿と二人きりの瞬間に感謝していた。
ついこの間、やっとの想いで両想いになれた私達。
でも、普段は七星士探しで二人きりの時間がほとんどない。
だからこうして婁宿と一緒に過ごせる時間は、私にとってとても幸せな瞬間だった。

七星士の中で一番疲れていないオテンバ娘の存在を忘れて、しばしこの幸せに浸っていた。



・・・・・。

婁宿がさりげなく私の手を取った。
突然なことに私は足を止めた。
「…誰もいないからいいよね?」
いつになく頬を染めて言う婁宿に、胸が高鳴った。
手から婁宿の温もりを感じながら、婁宿を見つめた。
婁宿はいつものように優しい眼差しで見つめてくれた。

ドキドキドキドキ・・・

そして婁宿が少しずつ顔を近づけてきた。私は頬を染めてそれに流されるままに瞳を閉じて…。

・・・その時だったーーー

「たたらおにいちゃあーんvv」

背後から元気の良い高い声がして、私達はすかさず離れた
その声の持ち主は、婁宿を見つけるなり、満面の笑みで駆け寄って来た。
白虎七星士最年少10歳のおだんご頭の無邪気で笑顔の絶えない女の子ー胃宿ちゃんだ。

「おにいちゃん、探したんだよぉ」
「ごめんごめん。胃宿ちゃん疲れてないの?」
まだ動揺してる婁宿をよそに、胃宿ちゃんは婁宿の裾を引っ張ってーー。
「全っ然!ね。向こうまで競争しよ」
「よーし。今日は負けないぞ!」
「どーだか。おにいちゃん、いつも遅いからぁ〜」
「言ったなー」
得意気に言う胃宿ちゃんの頭をグシャグシャに撫でる婁宿。
こう見てると本当の兄妹みたい。
もちろん婁宿はそのつもりだろうけど…。

するといつもはすぐ婁宿と追いかけっこを始める胃宿ちゃんが私の元へ来てあまり見せない真剣な表情で呟いた。

「鈴乃おねえちゃん、おにいちゃんと二人きりになろうだなんて100年早いわよ!」

ーーー!!

胃宿ちゃんの言葉に身体を硬直させたのを知らずに、胃宿ちゃんはいつもの無邪気な表情で婁宿のほうへと駆けて行った。

(まぁ…いつものことなんだけどね)

「あー、おにいちゃん先に行くなんてずるいっ!」
「ははっ。いいじゃないか。いつも胃宿ちゃんが勝ってるんだから」
先に走り出した婁宿に、文句を言いながら夢中に追いかける胃宿ちゃんと、それを優しい眼差しで見守るようにして、胃宿ちゃんのペースに合わせて走ってる婁宿を、私は微笑ましく見ていた。
胃宿ちゃんと一緒に遊んでいる婁宿は、まるで小さな少年のような無邪気な顔をしている。

(なんだか可愛いな)
私は普段はあまり見せない婁宿の一面を、頬を染めながら見つめていた。

胃宿ちゃんは、いつも無邪気な明るい笑顔で私達を和ませてくれる。とても甘えん坊な性格で、大の子供好きな婁宿になついてて、いつも婁宿の傍から離れない。
でも理由はそれだけではなかった。

私と婁宿が付き合いだす前のことだった。
村の民家に泊めてもらうことにした夜、もう寝ようと部屋に向かった。
部屋のドアを開けるともう寝ていたはずの胃宿ちゃんがいつになく悲しそうな表情で窓を開けて空を見上げている。
「どうしたの?胃宿ちゃん…」
「わたしね、小さいころ婁宿おにいちゃんに初めて会った時からずっと好きだったの。もっと大きくなったらお嫁さんにしてくれるって言ったの。…っでももう…」
最後は涙声になって、すぐにベットに潜り込んだ。
(胃宿ちゃん…)
私は胃宿ちゃんの隣に寝ると、かすかに震えている肩をそっと抱いた。
(こんな小さな胸でこんなに婁宿のこと想っているの…)
同じ人に恋をしている私は胸がいたんだ。

そして婁宿と恋人同士になった私は、気が晴れなかった。
胃宿ちゃんが2、3日私のことを避けていたからだ。
胃宿ちゃんの恋は本気だったってこと知っている。
あの日の涙の理由は婁宿の私への気持ちを察知していたから…。
胃宿ちゃんがいつも笑顔でいられるのは幼心に恋してる人がいたから…。
胃宿ちゃんからその人を私は…。

「ごめんね。胃宿ちゃん…」

さぁぁぁっ・・・
風が私の髪をなびかせて、同時に罪悪感からか涙が溢れた。

その時
「そう反省してくれればいいのよ!」
・・・・・?
後ろを振り向くと、いつもの笑顔な胃宿ちゃんが立っていた。
「胃宿ちゃん…」
「裏切りだよね?胃宿、おにいちゃんと婚約してたんだよ?」
・・・・・・
「本当に好きだったんだよ。恋する気持ちは子供じゃないもん!」
強気で言う胃宿ちゃんに私は何も言えなかった。
すると胃宿ちゃんは突然いたずらっぽい笑みになって言った。
「まぁ…おにいちゃんも男だし、浮気したい時だってあるよね!」
・・・・!!
とても10歳とは思えない言動に、私は目を丸くした。
「わたし、諦めないよ!だって1回ぐらいで諦めてたら本当の恋じゃないもん。いつかおにいちゃんに本当に恋してもらえるように頑張るの!!」
胃宿ちゃんは満面の笑みでそう言うと婁宿の方へ駆けて行った。

それから胃宿ちゃんの婁宿へのアプローチは今まで以上のものとなった。
時には先ほどのように強気な発言をしてくる。
小さいけど最強の恋のライバル・・・

「はぁ〜やっぱり胃宿ちゃんは早いなー」
「婁宿が遅いだけじゃない」
「す、鈴乃までそんなこと言うなよっ!」
ムキになって言う婁宿に私は思わず笑い出してしまった。
「もうどっちが子供なのか分からないわ」

楽勝した胃宿ちゃんは部屋に戻っていった。
私達は木の下でさわやかな風にあたっていた。
「胃宿ちゃんは本当の妹って感じだな」
「いいのー?小さな婚約者をそんな風に言ってー」
「そうだったな。恋人が2人もいて罪かな…」
婁宿は赤い顔をして微笑んだ。そんな婁宿の裾を掴んで俯いて言った。
「ちょっと焼けちゃうな…。胃宿ちゃんだけが知ってる婁宿の一面もあるんだもの・・・」
そう。例えば胃宿ちゃんと一緒にいる時の婁宿はまるで小さな男の子みたいーーー胃宿ちゃんがいなかったら絶対見られなかった一面だ。
「鈴乃って意外とやきもちやきなんだ。可愛い」
婁宿はやわらかな口調で言うと、いきなり私を抱きしめた。
ドキドキドキドキ・・・・・・・
「そ、そんなんじゃないよっ!違う・・・・やきもちじゃ・・・・・・・」
いきなりのことで身体中が熱くなった。抱かれる瞬間は未だ慣れずに胸を高鳴らせている。
(私だけの居場所…だよね…)
私はそのまま身体を預けた。
静かな二人きりの時間がゆっくりと過ぎていく・・・・・

・・・・と思っていた。

「おにいちゃ〜〜〜ん!」
再び小さな小悪魔の高い声がして、私は瞬時に婁宿の腕に中からスッ…と下にしゃがみこんだ。
(またこの子はいつもいいところで…)
私は顔を真っ赤にしながら、まさに泣きたい気持ちになった。
「どーしたの?おにいちゃん顔真っ赤だよ」
「ん・・・いや・・・何でもないよ」
「おにいちゃん!お勉強教えて!分からないところがあるの」
動揺している婁宿をよそに胃宿ちゃんはくったくない笑顔で言った。
(え・・・・・?それってまさかまた・・・・)
嫌な予感がした。せっかくの休日なのに、胃宿ちゃんは容赦なくやってくる。恨むことの出来ない天使のような悪魔の満面の微笑で…。
せめて今日くらいは二人きりでいたい…けど最も胃宿ちゃんに甘い彼は…
「いいよ。じゃ向こう行ってやろうか。鈴乃ちょっと先行ってるね」
(た、婁宿〜)
私はどん底に落とされた気分になった。
「じゃーねー。おねえちゃん!」
婁宿の優しい言葉に嬉しそうに駆け出す胃宿ちゃん。…と思ったら私のほうを振り返り、舌を出した。
「〜〜〜っ!」
私はこの時ほど胃宿ちゃんを可愛くないと思うときはない。

(でも…いいっか)
私は、無邪気な嬉しそうな笑顔の少女と、本当の子供みたいな彼を微笑ましく見つめていた。

小さな私達のアイドルは、時々生意気を言ったり、婁宿との邪魔をする。
でもあのくったくない無邪気な笑顔を見ると憎めなくなってしまう。
妹みたいな私の最強の恋のライバル。


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胃宿(こきえ)ちゃん。本編ではもう亡くなっていましたが白虎七星士です。一応モデルはセーラームーンのちびうさちゃん。
婁宿に恋する少女。鈴乃ちゃんもハラハラです。
これを期に胃宿ちゃん「小さな〜」シリーズを書きたいなぁとか思っています。反響次第で…って来なかったりして…(汗)
お読みいただきありがとうございました。


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